【シリーズ】モノづくりの人たち:自分たちの技術に自信と誇りを。旧態依然に正面から向き合い、新しい発想で「モノづくり」の真価を伝える、燕三条の海賊王。

(Interviewer:PXC株式会社 UTSUSU編集長 田村 典子) 

Interviewee:株式会社ドッツアンドラインズ 代表取締役 齋藤 和也 氏 

―株式会社ドッツアンドラインズさんでは、新潟県の燕三条から世界に誇る金属加工技術を日本中に広める「モノづくり」支援を主体とした新商品開発・ビジネスマッチング・産業発信事業等を行われていますが、齋藤さんが今のような会社をつくろうと思われたのは、何歳ぐらいのときだったのでしょうか?

(齋藤 氏)27、28歳くらいですね。当時から僕は一番になることに凄く拘りを持っていて。でも、一方で個人的にお金持ちになりたいとか、高級車に乗りたいとか、そういうことは全然求めていなくて。とにかく会社であれ、自分を取り巻くどんな環境であれ、必ずそのトップを走りたいとずっと思っていました。基本、負けず嫌いなんですよね。とにかく悔しいんですよ、負けるのが。一生子ども(笑)

―そうでしょうか。齋藤さんが、今こうしてドッツアンドラインズで尽力されていることを拝見しますに、そんな風には思いませんが。実際、世の中には「皆の為」という体裁だけで、結局自分だけが得をしようとする人も大勢いるわけじゃないですか。そういう世の中で、地元の多くの人々の信頼を得て、それぞれに異なる考えの企業様を組織団体として束ねていらっしゃるという事実から、そのトップを走っている齋藤さん自身に、その魅力や人としての懐が有り、ドッツアンドラインズさんで実現出来ていることは、正に齋藤さんの求心力によって成し得ていることなのだと思います。それに、地元の組織団体のトップとしての責任の重さもあるでしょうし。

(齋藤 氏)責任なんて、そんなおこがましい考えはないですよ。とにかく出来ることをやろうという気持ちと、どうにかなるだろうという気持ちですね。勿論、人間ですから、偶に辛く感じることもありますしね。

―そうですよね、だから結局トップを走らないっていう人の方が圧倒的に多いのだと思います。齋藤さんの場合は、自身の会社を立ち上げて代表を務めるというだけではなく、ここ燕三条の多くの会社さんを束ねるという大役を自ら買って出たわけですが、「モノづくり」の町として長い歴史と、それに関わる多くの先輩方がいらっしゃる環境下で、始めはとても勇気がいることだったのではないでしょうか。

(齋藤 氏)勇気はそんなにいらないですね(笑)。思ったことをやればいいだけの話なので。

―誰かに「こういう事やろうと思っているのだけど…」というような、ご相談をされたりはしますか?

(齋藤 氏)それは勿論します。先ずは信用できるメンバーに相談して、その上で「じゃあ一緒にやろう」っていってスタートしたら、あとは仲間を募るだけです。

―ドッツアンドラインズという会社は、今、会社にいらっしゃるメンバーと一緒に立ち上げられたのでしょうか。

(齋藤 氏)はい、ドッツアンドラインズの現役員メンバーと一緒に立ち上げました。役員は全員、僕自身が直接引き入れた人材なので。

―ドッツアンドラインズさんが、今の規模の会員企業様を集めるまでに、どのくらいの年数が掛かったのでしょうか?

*「燕三条こうばの窓口」に整然と並ぶ『燕三条企業図鑑』
https://factory-window.jp/

(齋藤 氏)2年経ってないと思います。来年の3月でまる2年ですね。今、120社くらいですね。

―たった2年でここまでの組織団体にされたのですね。

(齋藤 氏)組織団体というか、仕組みは、所謂広告ビジネスですよ。屋外広告と一緒です。広告としての枠を販売しているので、その媒体に興味が無い人は買わないというシンプルなものです。

―そうですよね、仕組みとしてはそうなのかも知れませんが、でも、その類のものと全く一緒という風には感じないですよね。

(齋藤 氏)そうですね、このサービスを活用する側の企業が、これが単なる広告なのか、別の可能性があることまで見抜けるか、自分たちでそれを見出そうとするかどうかが鍵だと思います。例えば、この媒体に自社が露出することで、いろいろな企業や団体と繋がれるな、と思うかどうかもそうですし、そういう動きに関わりたいと思える企業かどうかですよね。そもそも自分の脳を動かせる人じゃないと、所詮その会社に成長も将来性も無いと思うので。だから、僕らが展開しているサービスが基本「広告」であったとしても、その広告の裏側に隠された仕組や仕掛けの意図を読み取って、自分なりに分析ができるような企業じゃないと恐らくダメだと思うんですよね。自分たちで何も考えずに、ただ何かにおんぶに抱っこで、それで上手くいくと思っているような企業はそもそも生き残れないと思いますし、そういう企業を束ねたところで、多分その組織は長く持たないと思うので。

―そうですよね。結局はその会社自身が自分たちで何とかしようっていう思考が無ければ、周りから支援するにしても限界がありますよね。

(齋藤 氏)結論、僕らのような企業のサービスをどんどん利用してください、ということです。僕らからの声掛けをただ待つのではなくて、こういうことやれませんか?とか、積極的に企業さん側からも提案してきて貰えたら、僕らも他の会員企業の方々も一緒になって考えたり出来ることが、この組織の価値でもあるわけですから。僕らは僕らの果たすべき役割として、このJR燕三条の玄関口だけでなく、日本全国で「燕三条企業図鑑」を広めていますしね。この広告活動に関しては、当然ですがかなり精力的に活動していますよ。ドッツアンドラインズの月会費は1万円ですが、月1万円で、これだけの規模と範囲での広告・PRは、中小企業単独では実際出来ないわけですから。だからこそ、「僕らを利用してください!」っていう発想と、「よし利用してやろう!」っていう考え方の両輪で成り立っている組織団体なのだと思いますね。

*『燕三条企業図鑑』

(齋藤 氏)結局、僕は海賊王になりたいんですよね。

―え⁈どういうことですか?(笑)

(齋藤 氏)歴史ある分野の仕事って、やっぱりしがらみとかも結構あるんですよ。それと自分たちの技術に未だ自信が持ててない会社さんも多いです。それは長い間、委託された仕事しかやってきていないからなんですよね。仕事を貰っているという下請け意識が強い。それが何十年と続いた結果が現状なんですよ。もっと自分たちの技術に自信が持てれば、モノづくりのプロとして精度を高める時間やコストも主張できるはずなのに、それが出来てこなかった為に、発注先の無理難題に合わせざるを得なく、結果、自転車操業になっている会社も多くて、そうなると、当然いつかは採算が合わなくなり、事業の継承も厳しくなってしまうという悪循環。

―伝統技術の継承は、少子高齢化の日本における大きな課題ですよね。

(齋藤 氏)そうですね。だから僕はその技術を持つプロたちに自信を持ってもらうことを中心に活動していきたいんです。そうすることで、本質的に燕三条という町の未来を引き継いでいけると思うからです。一方で、いまだ中間業者として仕事を出している側が、技術者やモノづくりの会社に対して、「我々が仕事を出してあげていることで、君らを助けているんだ」というような物云いで偉ぶったり、昔ながらのヒエラルキーを振りかざすことも多いのですが、彼らは本当に何か大きな思い違いをしていると思うんです。そもそも、その仕事は、この燕三条の職人の技術があってこそ依頼されている仕事だということを、彼らには、さすがにいい加減認識して欲しいと切に思います。そこまで偉そうにモノづくりのプロを「守ってやっている」というのであれば、M&Aでもして頂いて、事実上、面倒をみていただきたいくらいですよ。

―本質的な価値が変わらないようにするために、変えなければならない部分があるということですかね。

(齋藤 氏)そうですね、この町を変わらず成長させていきたいと考えると、やっぱり古くて良くない慣習みたいなものは壊さないといけないんですよね。未来を担っていく新しい世代を台頭させるためにも、誰かがその“壊し役”をやらなければならない。僕は、その役割を今後もやっていきたいと思っていますし、僕の行動を見て、もし僕が失敗したら、それを教訓にして貰いたいし、成功したら、その可能性を引き継いで貰えば良いと思っています。

―それが、齋藤さんの仰っている「海賊王」という役割なんですね。

(齋藤 氏)はい、この町で一番自由に動く男という意味です(笑)。と云っても、勿論、自由気ままに勝手をやるということでは無くて、昔ながらの良くない慣習に縛られて、良い「モノづくり」ができないのであれば、それを変えていきましょうということです。実際、良い「モノづくり」は、良い環境下でしか生まれないので。全てがギリギリの環境で「モノづくり」をしても、想像力も湧かないし、ブランディングもできない。ただ目の前にある仕事に追われて労働集約型になる。これは良い「モノづくり」に悪影響しか及ぼさないです。

―お話をお聞きしていて、齋藤さんは、「モノづくり」に自信を持てなくなっている会社さんや、本来、悪くないはずなのに頭を下げちゃっている立場の職人さんとか、一番日の目を浴びるはずなのに、実力が有りながら日陰にいるような方々に、正当なポジションや環境を用意することに尽力されているんだなと思いました。

(齋藤 氏)そうですね、そういうことを成し得るためには、僕は敢えて皆が耳の痛いことも言わなきゃいけないって思っています。違うことは違うし、ダメなことはダメだから。とにかく、この町で真剣に「モノづくり」をしている企業や人たちと、本当に良い「モノづくり」を続けていくために、彼らと常にコミュニケーションを取り続けていきたいですよね。

―パワーがいりますね。

(齋藤 氏)そういう僕自身も、皆から沢山の指摘を受けることで成長していることも事実ですし。

―自分が迷いたくないから、他人に言われたことを全く聞き入れずに、只々論破するっていう人も結構いらっしゃいますもんね。

(齋藤 氏)そうですね。でもそれだと何も先に進まないんですよね。やっぱり本気で考えている同士、意見の相違があって当然だから、きちんと話しをしていくことが大事だし、お互いに良いところは認め合って、悪いところは改善していく姿勢を持たなければならないと思います。実際、本当にどうでもいいと思っている人は、何も言わないですから。何かを言ってくれる人たちは有難い存在ですよね。ちゃんと見てくれている証拠だと思いますし。僕も、今後も更に多くの方々と関わって対話をしていくことで、この燕三条の世界に誇る「モノづくり」を守り、発展させる為の糧にしていきたいと思っています。

https://dotsandlines.co.jp/

※上記ドッツアンドラインズ 齋藤代表のインタビュー記事前半は冊子版「UTSUSU」Vol.5(2025年1月24日発行号)にも掲載しています。

【News:株式会社ドッツアンドラインズ、JR 東日本ローカルスタートアップ投資事業有限責任組合からの出資第一号案件に】

2024年11月、株式会社ドッツアンドラインズさんは、「JR東日本ローカルスタートアップ投資事業有限責任組合」の出資第1号案件に選定されました。ドッツアンドラインズ齋藤代表は、この出資を通じて、新潟県三条市で展開する「Eki Lab 帯織」や「JRE Local Hub 燕三条」といった地域密着型の事業活動で、さらなる成長と発展に向けて大きく飛躍できる機会にしたいと述べられています。

JR東日本プレスリリース:https://www.jreast.co.jp/press/2024/20241106_ho03.pdf

株式会社ドッツアンドラインズ
本社住所:〒959-1117  新潟県三条市帯織 2342番2
事務所住所:〒955-0844 新潟県三条市桜木町12-38-304ファブラボ燕三条内
お問合せ先:info@dotsandlines.co.jp

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